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【百万円と苦虫女】最高に愛おしい“上手に生きられない女”

生きづらい若者の青春を描く【百万円と苦虫女】

世の中には、明るく輝くような人生を自然に歩める人と、そうでない人がいる。

一生懸命なのに、なぜかうまくいかない人、ありのままでは愛されない人。そういう人がいる。この映画はそんな、不器用で上手に生きられない苦虫女の、人生の一部を映し出した映画だ。


主題歌/原田郁子「やわらかくて きもちいい風」

映画【百万円と苦虫女】のあらすじと魅力

主人公である鈴子(蒼井優)は、短大卒業後も定職に就くことができず、レストランでアルバイトをしていた。いわゆる、フリーターである。そんな中、友人から「ルームシェアをしないか?」と話を持ち掛けられ、なんとなく同意してしまう。しかし、その友人は鈴子の了解を得ることもなく、彼氏を同居させることに。しかし、その後すぐに友人と彼氏は破局し、友人は出て行った。なんと男と鈴子がふたり、残されてしまったのだ。

鈴子はその部屋で拾ってきた猫を飼うことにした。しかし鈴子が留守にしている間に、同居する男に猫を捨てられてしまった。鈴子はどうしようもない怒りに駆られ、部屋にある男の私物を全て追い出した。それが原因で警察沙汰となり、鈴子はわずか21歳で前科者となってしまったのだ。

元々上手に世渡りできない。さらに、理不尽ともいえるできごとで前科者となってしまった鈴子は実家に戻るが、そこでも家族の対応は冷たい。どこにも居場所を感じられない鈴子は「100万円貯まったら出ていく」と宣言。

それ以降鈴子は、100万円貯まるごとに町を移り住むという生活をしていくが……

魅力:上手に笑えない苦虫女

苦虫女とは、苦虫を噛みつぶしたような顔で笑う女、鈴子のことである。彼女は世間一般の若い女の子とは少し違う。簡単に言えば「根暗」で、不器用。素直に自分を出すことができない、そんな「できないほうの人」を蒼井優が演じる。生きづらさの象徴ともいえる配役である。

元々虐められていたこと、そして家族の中でも無条件で愛されるような存在ではない。そんな彼女は、自分の居場所を求めてさまよう…のではなく、ひとりきりになるために町を転々とするのである。

誰にも依存せず、たった一人で生きる。

自分の機嫌を自分でとり、自分を解放し、ひとりであることに依存しているかのように。

しかし、この世の中で人間として生活する以上、一切誰とも口をきかない、顔を合わせないということは不可能だ。鈴子は次第に、様々な人々と出会うことになる。

魅力:100万円という金額は、心の距離

鈴子は、おそらく安い賃金であろうアルバイトを転々として、100万円を貯めていく。鈴子は劇中で、3つの町を移り歩く。物欲もない、派手な遊びもしない鈴子にとっては、高い目標ではないのかもしれない。それでも生活しながら100万円を貯めるには数ヶ月は必要だ。

つまり、100万円貯まったころには、少しずつ町の人たちとの距離が近くなっているということ。鈴子は心の距離が近くなるのを拒む。面倒なことになるだけ。結局、自分と他人はうまくやれないのだと、最初からあきらめているのだろうか。100万円という金額は、人との心の距離なのかもしれない。

魅力:エンディングのせつなさともどかしさが、心を掻きむしる

ネタバレは避けたいが、この映画のエンディングは心をかきむしるような「せつなさ」と「もどかしさ」が強い。

なぜ人はうまく生きられないのか。こんなに一生懸命なのに、どうしてハッピーエンドにならないのか。主人公やその周辺人物のことが、愛おしくて愛おしくてたまらなくなる。

不器用で、下手で、輝きのかけらもない。そんな彼らに、これ以上ない愛着が湧くのだ。きっと「うまくできない」方の人を経験している人には必ず心に刺さるものがあるはずである。生きづらさとは、こういうことをいうのではないか。

映画【百万円と苦虫女】の作品情報

【公開】

2008年

【キャスト】
蒼井優・森山未來・佐々木すみ江・ピエール瀧/他

【監督】

タナダユキ(さくらん・ふがいない僕は空を見た)

【主題歌】

原田郁子「やわかくて きもちいい風」

クラムボンのボーカル&キーボードを担当する、原田郁子による主題歌が浸透である。クラムボンはキャッチ―でポップな楽曲が多いが、原田のソロ曲は、ピアノメインのしっとりした曲調のものが多い。

この「やわらかくて きもちいい風」の歌詞はまさしく、こんな生きづらい私たちを包み込むような、ぬるい風のような詞。そして、主人公の鈴子の心情を、少しだけ匂わせるところがまた、たまらなく素敵である。

世の中に疲れたら観たい…百万円と苦虫女

世の中には、表面と裏面がある。みんな、当たり前のように表面を軸にして生きているかもしれないが、裏面ばかりの人生というものもある。どっちがいいという、優劣はない。でも、絶対に裏面の多い人生の人にしか分からない感性がある。そんな、すべての「うまくできない人」が、明日も頑張ろうと思える。

そんな、静かで優しい映画である。

 

(ライター・夏野新)

 

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