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【映画レビュー】「彼女がその名を知らない鳥たち」というタイトルの意味は、ラストまで見た者だけがわかる。

画像引用:http://kanotori.com/(彼女がその名を知らない鳥たち公式サイト)

2019年、南海キャンディーズの山里亮太さんと結婚を発表したことが記憶に新しい女優・蒼井優さん。ちょうど「彼女がその名を知らない鳥たち」を鑑賞したいなと思っていた矢先の出来事でもあった。

「なんで山ちゃんなんですか?」なんて言うマスコミのゲスな質問はさておき、結婚し妻となった蒼井優さんの出演作である「彼女がその名を知らない鳥たち」をレビューしていこうと思う。

※ややネタバレ

「彼女がその名を知らない鳥たち」の簡単なあらすじ

蒼井優演じる北原十和子には、一緒に暮らしている男がいる。阿部サダヲ演じる佐野陣治だ。だが、決して恋人らしい関係ではなく、むしろ十和子は佐野に冷たく当たり、実は忘れられない男性がいる十和子。物語は、そんな十和子が「時計屋にクレームをつけている場面」から始まる。

映画の魅力と見どころは?

じっとりとした色気のある作品

「彼女がその名を知らない鳥たち」は妙にじっとりとした色気のある作品だなと思う。まさにネガティブな心境で、胸キュンとか「好きな人がいて幸せ」というキラキラした世界を見たくない時にぴったりだ。全体的に空気感は、やや重い。それは蒼井優さん演じる主人公の、心のじっとりとした重さや、生活感がそうさせているのだろう。

「惰性」という空気を、見事に体現している。そう、惰性とはこういうことを言うのだ。

ゴミだらけ、洋服の積まれた部屋で働かずに過ごす主人公が、恋愛したとたん部屋をきれいにするところも、分かる人には分かる。恋愛をモチベーションとして、生活のすべてを左右してしまう、そんな依存的で惰性的な女性のリアルがそこにある。

この下品さは、ないようでよくある

阿部サダヲが演じている「ジンジ」は、一言で言うと小汚い。不潔とまではいかないものの、「泥臭い」と言える風貌、スマートとは似ても似つかない佇まい、例えるなら、一緒におしゃれなカフェには死んでも行きたくないタイプである。しかし、なぜか「すごく個性的な人」とか「変わり者」という風には見えない。

世で言うイケメンや爽やかで品のある男性ではなく、現実は「ジンジ」のような人こそ身近な存在ではないだろうか。安く済ませたいからうどんを作り、物のごちゃついた小さなテーブルでズルズルとすすり、仕事の愚痴をこぼしながら足のゴミを取っていたりする、そんな人間臭さに、どうしようもない恥ずかしさと親近感を覚えてしまう。

阿部サダヲさんといえば、清潔感のある義理のパパを演じたり、時代劇からサイコパス、コメディーまで幅広くこなす俳優である。その期待を裏切ることなく、「彼女がその名を知らない鳥たち」ではまた別の、白いTシャツにしみ込んだカレーのシミのように、うざったくも深く沁み込んで取ることができない「愛」を表現しているところは見ものだ。

まるで標本のような「クズな男たち」

「彼女がその名を知らない鳥たち」では、客観的に見ると「もうクズでしかない」と思えるようなクズ男たちが物語の鍵を握る。キャストは、松坂桃李・竹野内豊という「ザ・甘い言葉を吐けばついていってしまう男」とも言えるような二人だ。

平気な顔で不倫をし、言葉巧みに信じさせ、欲を満たす。ただ、それだけの男。

悲しいことにこういう男性は現実にもいるが、主人公・十和子のような危うげな女性を嗅ぎ分ける特別な嗅覚でも持って生まれたのだろうかと思わされる。松坂桃李が劇中で囁く、心の隙のある孤独な女性を惑わせる湿度の高い言葉は、この映画でしか見られないかもしれない。竹野内豊に関しては、言うことがない。(まあ、さすがのベテランだよなあ)というところ。強いて言うなら、この人みたいな歳の取り方はどうやったらできるのか教えてもらいたい。

個人的には、キスの仕方がよかった。何度も繰り返す描写なので、ぜひ偽りの最高潮な甘いキスを見ていただきたい。

【考察】「彼女がその名を知らない鳥たち」という意味は…

ほっておいても愛し続けてくれる男

恋愛とは、謎が多いものだ。ある程度恋愛を重ねてきた人であれば分かると思うが、「自分の事を嫌になるくらい好きでいてくれた男」とはなぜか別れてしまったり、冷めてしまったりする。そして、「自分が好きで仕方ない男」とはうまくいきにくい。そこから数年経って、「ああ、その時の私を愛してくれた死ぬほど一途な男と、なぜ私は一緒にいなかったのか」と後悔したりするのだ。

「彼女がその名を知らない鳥たち」では、15歳も年上で毎日泥だらけで働いて帰ってきて、家事も何もしない十和子に何も文句を言わず、すぐに食事の支度をして、マッサージまでする「ジンジ」がいる。それでも十和子は、素直に「ありがとう」なんて思ったりしないし、ひどい扱いをしている。

よく恋愛では「逃げれば追う、追えば逃げる」なんて言うが、十和子は何もしなくても常に追ってきてくれる「ジンジ」の愛に、きっと気づくことはないし、気づいたとしてもまだ到底先の話なのだろう。

「鳥」は、彼女が知らない間に失くしてきた「愛の象徴」

彼女は最初から最後まで愛を知らない。感情のままに不倫に溺れ、自分を見失い、そして何度も自分を犠牲にする。そんな姿を知っていて、絶対に裏切らないで居場所を作ってくれる男もいる。

人は己のおろかさやズルさに気付くまでに、何度も痛手に合う。滑稽なほど恋に溺れ、その間に失くしてしまっている大切なものにも気づかないものだ。「彼女がその名を知らない、愛という名の鳥たち」は、本当はすぐそばを飛んでいる。それでも、どうやっても気づかない十和子の脆さや、切ないほど傲慢でズキズキとした心の弱さを、表現したタイトルだと筆者は考えている。

そして、彼は本当に鳥になった!?

どこまでもどこまでも、十和子を愛する「ジンジ」は、ラストで本物の鳥になる。それはどういうことか……。

最後まで見終わった時、あなたもきっと、この作品が届けたいメッセージがわかるはずだ。正しいか間違いかはわからなくても、筆者は「これは愛の物語だ」と強烈に感じた。そして一度ではなく二度見くらいしてから、もっと味がわかる作品だと思う。

あなたはどう思うだろうか。是非見てみてほしい。

「彼女がその名を知らない鳥たち」作品情報のまとめ

■キャスト

蒼井優……北原十和子

阿部サダヲ……佐野陣治

松阪桃李……水島真

竹野内豊……黒崎俊一

國枝カヨ……村川絵梨 ほか

■監督:白石和彌(しらいし かずや)

■原作:沼田まほかる

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