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ネガティブ/マイノリティ専用WEBマガジン

day6. 犬と空|「星空は、雲を食べたい。」fromソラ

小さな白い命

Photo by Sora

小さな白い命との出会いは、間違いなく私の人生をカラフルに変えた。

堪えた涙も彼が傍によって来ると肩の力が抜けてぽろぽろと流れていった。今日はもう頑張れないと思っても、一緒に眠気と抗ってくれる彼を見ると、あと5分だけと頑張れた。眠れない夜も私の腕の中ですやすやと寝息を立てている小さな命が心地よく羊を数えるよりも効果があった。

どこに行くのにもついてきて、私の一人の時間はゼロになった。私の家族もとうとう、トイレのドアさえ閉めなくなった。彼がひょっこり顔を覗かせるのが可愛いから。

彼の名前は「ましろ」と名付けた。真っ白の毛を持ったトイプードルで今年はもう13歳になる。人間の子どもであれば中学1年生だ。ましろと出会ったとき私は中学1年生だった。まさか当時の私と同じ年齢にましろがなるだなんて。一緒に過ごした長い時間を振り返ると愛おしさが増してくる。あっという間の13年間だった。

愛おしい子犬だった彼は現在、愛おしい老犬としてのんび実家で暮らしている。寝る時間も増えて、オムツをして、やわらかいご飯を好むようになった。それでもまだまだ元気である。家の中を走り回るのも、大きな声で吠えるのも、人間の食事時を狙うのも変わっていない。

寒がりだからと母にフリフリのワンピースを着させられてご満悦なのも、ボール遊びが好きなのも変わらない。でもやはり彼は一日一日老いている。トイプードルの平均的な寿命は12歳~15歳だ。彼に残された一般的な寿命はあと少しである。

少しでも穏やかな毎日を、幸せな毎日を彼が過ごせるように、離れて暮らす私の分まで両親が可愛がってくれている。実家に帰れないまま、また半年が経った。次に会うとき彼は私の顔を忘れていないだろうか。

一言も言えない私と犬

Photo by Sora

私はずっと犬に依存していた。何があっても裏切らない。だから私の全てで優しくできる。私の命とすり替えても守ってあげたい小さな命だ。たかだか犬一匹にどれほど入れ込んでいるのかと私の欠陥に呆れる人もいるだろう。

事実、私はペットの存在にそれほどまでに救われていたのだ。限られたコミュニティーに居続けるのも窮屈で、私は一人でいる方が気が楽だった。昔から思ったことをなかなか口に出せない私は、心を開ける相手が誰一人としていなかった。

母から聞いて思い出したのだが、私は幼稚園のころ母の作ってくれたお弁当を残せず吐いて体調を崩したことがあるそうだ。

私は幼いながらに母が毎日忙しくしているのを知っていた。母は私が残さずお弁当を食べて美味しかったと伝えると、嬉しそうにしてくれた。だから私はお弁当を残して母を悲しませたくなかったし、全部食べたよって言って褒めてほしかったのだ。

「お弁当が多いから減らしてほしい」と幼い私が言えるはずもなく、幼稚園の先生が母に伝えたらしい。母は「多めに入れてるからお腹がいっぱいになったら残すんよ」って何度も伝えたのに、ソラは昔からそういう子だったと笑いながら話してくれた。

子どもの成長は早い。お弁当が足りなくてお腹が空いては可哀想だからと、多めにご飯を詰めてくれていた母の優しさは大人になっても心地がいいものだ。

一致団結した家族

Photo by Sora

もう少し私の話をさせてもらいたい。私はサンタクロースに欲しいものを伝えるのさえ苦手だった。わがままを言って大好きなサンタさんが来てくれなかったらどうしようと怖かったのだ。そして考えれば考えるほど、何が欲しいのか分からなくなった。それに、いい子にしていないとサンタさんは来てくれないらしい。

子どもながらに考えて「いい子」を選択した私はプレゼントを選べないままクリスマスの朝を何度も迎えたが、サンタさんが選んでくれた枕元のプレゼントの包み紙を開けるのが毎年本当に楽しみだった。サンタさんが届けてくれるプレゼントはどれも私の宝物になった。

つまりここまでで伝えたかったのは、きっと両親は驚いたのだ!ということだ。そんな性格の私が「この子が欲しい」と梃子でも動かぬ様子で白くて小さい犬を見つめ言うのだから。

そして、犬を家族として迎えるために私たちは初めて家族全員で一致団結した。当時のアパート暮らしでは犬を飼えなかったため、犬を買った後に一軒家を建てる必要があった。私たちはましろと暮らす新しい生活のため家族全員で動き出したのだ。

家が建つまで祖父母がましろを預かってくれた。祖父は家が建ってましろを私たちが引き取るとき寂しそうだった。真っ白い毛をもった小さな命は、私たち家族の生活をまちがいなくカラフルにしている。

彼と目が合ったとき、人生最大のわがままを言ってよかった。

雲みたいな犬

Photo by Sora

他の犬とは別の狭いゲージに入れられていたましろは、可哀想な売れ残りの犬だった。

彼は売れ残りの犬が入るゲージに入れられていたけれど、特別に耳を空色に染めてもらっていた。彼は立派な血統書付きの犬にもかかわらず8万円の値札がついていた。彼のタイムリミットは残り少ないと、悲しい目で店員さんは話す。

私はましろと目が合ったとき思わずしゃがみこんでしまった。空色の耳をした雲みたいな犬がこちらを見上げてくる。彼の人懐っこさは一級品で、甘え上手だった。

しかし、小さな命は簡単に私の元を去っていくのを知っている。私は幼稚園のころからずっとハムスターを飼っていた。一人っ子で両親は共働きだったため一人で留守番する日も多かった。それでもハムスターがいたから寂しくなかった。

自分で鍵を閉めてランドセルを背負い学校に行く。そしてまた一人で鍵を開けてランドセルをおろしてハムスターと遊ぶのが日課だった。当時は「いってきます」と「ただいま」を両親よりもハムスターに言った回数の方が多かっただろう。

私は小学5年生のとき誕生日の日に迎えたハムスターを1日で亡くしてしまった。

家に帰ったとき母がとても悲しそうな顔をして「プー」が入っているゲージを指さした。しかし、ゲージは空っぽだった。プーと私は1日しか家族になれなかった。

母はプーの亡骸を隠して別の子にすり替えておこうかと思ったと、泣いている私に言った。私はそれから小さな命と暮らすのを恐れ一人ぼっちになった。

13歳の犬

Photo by Sora

ましろは13年も私と一緒に生きてくれた。何度もご飯を食べなくなって覚悟をしたときもあったが、ちゃんとおじいちゃんになってくれるまで一緒にいてくれて私はなんて幸運な飼い主なのだろう。

ましろは毎晩父と眠っている。父の枕を取って眠っている姿を何度も母と見ては大笑いをした。父はましろが可愛くて仕方がないようだ。体調が悪くなったら母の膝の上から動かないらしい。きちんと助けを求める相手を吟味しているあたりも人間味があっていい。

ましろは私が傍にいなくても、私があけた穴に楽しいものをたくさん詰めているようだ。私はそれが少し寂しくもあるが、「流石、私の犬だな」とも思う。彼は寂しいときの甘え方をよく知っているのだ。何があっても裏切らない家族にましろは全身全霊で甘えている。

ましろにとって私が家からいなくなった寂しさはどれほどのものだったのかは分からないが、私よりも忘れっぽいので羨ましい。時間が全てを忘れさせてくれるのは人にとって容易ではないようだ。

私たち家族にたくさんのものを与えてくれた小さな白い命はもう長くはない。13歳になる犬は急に何かあってもおかしくないのだ。考えると居ても立っても居られなくなる。

私にはまだましろが必要でお別れなんて考えたくもないのだと大声で叫びたい。お別れの悲しみには慣れなくていいとよく言うが、本当だろうか。「強くなる」のとはまた別の話なのだろうか。私はきっと他人よりもお別れが苦手で怖くて怖くて仕方がないのだ。

一日でも長くこの愛しい寝顔を眺めていられますようにと、画面越しの愛犬をいつも想っている。/ソラ

day5. 祖母と桜|「星空は、雲を食べたい。」fromソラ

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