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【episode9】経験値×感性=懐の奥行の学び ハシマトシヒロさん

ハシマトシヒロさん/空道弐段、空手初段、柔術白帯

Part3の第9回目は、武道家のハシマトシヒロ(羽島俊洋)さんのご紹介。

ハシマさんは2月にも『そこ温』へ参加してくださっているが、「武道家の男性」というカテゴライズを飛び出したnoteの中身に、わたしは唸ってしまった。

前回の紹介記事はこちら

男に好かれる

男VS男のAVを持って「一緒に見ませんか……?」と訪ねて来たり、手作りのおにぎりをいただいたりした。さすがにおにぎりは、怖くて食えなかった。

男に好かれる/ハシマトシヒロ note

ハシマさんが若いころ、男性にモテていた時期のあるエピソードを綴ったnote。

短編なのに、中盤の展開とラストのオチまですべて含めて「深夜ドラマの脚本にできるのでは?」と思うほどインパクトの強いエピソードである。「男に好かれる」の域を飛び越え、受け取りようによっては、男性からの熱烈なストーカー被害の告白ともいえる。

もちろん、類まれな仰天エピソードも面白いのだけれど、20代の頃のエピソードを振り返って、こうして文章作品として残していることに私は大変な価値を感じている。

たとえば「ブラウン管をたたき割った音」とか「AV3本も抱えていた」といった言葉の中には、その時代が映し出されているのだ。

今では液晶をたたき割ったところで音など出ないだろうし、AVはダウンロードするとかストリーミング再生するとかなわけで。ハシマさんと、おんなおとこのトミ子との間には、当時の懐かしさと趣さえ感じられる。

こうして、人の人生の中に確かにあった出来事、あの安アパートで確かに起こった事件として、確かに残されていくのって素晴らしいことだなと思う。居酒屋で酒のつまみに話すことと、たとえ内容が同じだったとしても、全く違うものに変わるのではないかと感じた。

時がたって改めて思い起こし、静かに筆にしたためている様子からもハシマさんの懐の広さとあったかさを感じた。

あの頃の先輩と原始的な稽古

僕は、もう30年ぐらい武道を続けている。
空手に始まり、現在は空道という武道の稽古をしている。
下手の横好きで長年続けてきただけで、大きなタイトルも取っていない平凡な選手だ。
たくさんたくさん負けた。
タンカで運ばれたりもしたし、いろんな箇所をケガした。
ただ、そんな平凡な僕でも、勝手に決めてることがある。

「痛みでは倒れない」

ということ。
つまり、腹を殴られたり、脚を蹴られたり、その際の「痛み」では倒れないということ。
「痛み」は、我慢できるから。

あの頃の先輩と原始的な稽古/ハシマトシヒロ note

ハシマさんの通っていた道場の先輩とのエピソード。ここでいう原始的な稽古とは、打たれ強くなるために、無抵抗に腹を殴らせたり、脚を蹴らせたりするという「痛みへの鍛錬」である。これを教えてくれた先輩が、試合で脳にダメージを負い亡くなってしまう。

鍛えられるところは手を抜かずに鍛える。できることは全力でやる。筋肉や力だけじゃなく、精神面も同じ。それで負けたら、悔いはないという考えには尊敬を示すとともに、共感する。

そこまで空手に真摯に向き合っていた先輩が、まさか命を落とすことになるなんて。その知らせをすぐに受け取ることもできなかったなんて。

ハシマさんが今も原始的な稽古を続けているのは、もちろん痛みに負けるという「恥ずかしい負け方」をしないため。でもなんとなく、それだけではなくて、自分の中に慕っていた先輩の片鱗を残しておきたいという気持ちもあるのではないかな、そんな風に想像した。

自分の中にあるもの、ずっと残り続けているもの、自分を構成するものは結局「人」なのだろうと思う。あの頃の先輩を思い出しているハシマさんの中には、強くなりたいという願望よりもっと強靭な人への想いや敬意があるように感じた。

何より、とても勉強になる内容だった。私は武道とは程遠い世界にいるが、これは人生の何事にも置き換えて考えることができるnoteであった。

ピザ屋に憑く霊は、幸せに転生する。

「ああ、あそこ? あそこ何年か前に虐待された子供が餓死したらしいで」
缶コーヒーを飲みながら、抑揚の無い口調で教えてくれた。

辛かったやろな。
しんどかったやろな。
怖かったやろな。
ずっと腹減ってたんやろな。

生きたかったやろな。

その子の「想い」が、そのマンションの3階フロアに強く強く残ってて、それが僕の「霊感」みたいなものと呼応したんだろう。

ピザに憑く霊は、幸せに転生する。/ハシマトシヒロ note

宅配ピザのアルバイト中、配達先に不穏な空気を感じる場所が「子どもが虐待死した場所」だったというこちらのnote。

悲しみや恐怖といった不快感情を抱くはずのできごとが、どうしてこんなに温かい気持ちになるんだろう。

命を落とした子どもに想いを馳せつつも、ハシマさんのセリフひとこと一言からは「かわいそう」という湿っぽさがまるで感じられない

隣に立って、何の見境もなく声をかける。大人から子どもへじゃなくて「人と人」のやり取りが、ここにある。

お前がいつから虐待されるようになったか知らんけど、美味しいもん食べさせてもろた思い出とか、あるか?無いんやったら、さっさと成仏して生まれ変われ。

(中略)

とりあえず、このピザ一切れ喰ったら、成仏しろ。まー、喰えんやろうけど。さっさと生まれ変わって、自分で喰いに来い!

ピザ屋に憑く霊は、幸せに転生する。/ハシマトシヒロ note

こういう大人が近くにいたらいいのにって、心底思ってしまった。こういう言葉をくれる大人って、本当にいないから。みんな、もっともらしくて優しそうな言葉をかけるけど、子どもは「自分で喰いに来い」と、自分の力に託されることを望んでいたりもするから。

わたしは幽霊でも子どもでもないけど、誰かに「おい、これ食って元気出せよ。お前ならできるよ」って言われてみたかったなぁ。

ハシマトシヒロさんのnoteから、たくさんの人情と、経験値と、温度を分けてもらった気がする。強さと繊細さが入り混じっているハシマさんは、やっぱり武道家という枠にとどめておくことはできない。物の見方や感性、人の想い方がとても魅力的だった。

様々なことを見聞きしてきた経験値に、もともと持っている感性や着眼点がかけ合わさっている。どれも短編のnoteですぐに読めてしまうのに、そこには私にとって無数の学びがあった。こんな大人になりたい、と思わずにはいられなかった。

これからも、長い人生の中で記憶に残っているエピソードを、書き残してほしい。ふと感じる目の前のことを、文章として残してほしいと思う。

ハシマトシヒロさんのnoteはこちら→https://note.com/33203320

ハシマトシヒロprofile:空道という21世紀の総合武道をライフワークとしています。 空道の宣伝をするつもりでしたが、嫁の話や私小説的な昔の話なんかを書いてしまっています。 アイコンは、片眉を剃って山籠りするくまです(嫁・作)。

Kandouya編集部/夏野 新

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