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【episode10】カクテルグラスを伝う、生の温度「藤田七七」

藤田七七(@fujita77)さん

そこ温Part3、ラストとなる第10回は藤田七七さんの紹介。

藤田七七さんは2回目の登場である。前回の紹介記事はこちら→【episode6】傷ついた深夜2時に読みたくなる藤田七七のイケナイ魅惑なnote達

藤田七七さんのnoteは、まるで、ピカピカに磨かれたカクテルグラスだった。

やたらに素手で触ろうものなら、私の手垢がべっとりつくのが想像できる。

なんとなく、むやみに触れられないところに掲げられているような気もする。でも、読み進めるうちに、どこかへ深く静かに潜っていくような気もして、不思議な浮遊感におそわれた。

目が回っているのか、それとも酔いが回っているのだろうか。

惚れた彼女と夏の夜に

彼女と出会った頃、僕が照れながら「短い髪の合間から見える耳の形が好きだ」と言うと、彼女は「そんなこと言うのはあなたがはじめてだ」とにやけていた。

彼女はそろそろ髪を切る頃合いなのかもしれないし、僕はその耳が見えることを密かに期待した。

惚れた彼女と夏の夜に/藤田七七 note

藤田七七さんのnoteには、数々の男女のアレコレが綴られていた。男と女の間には、こんなにも細かやでデリケートな目線と交わりがあったことを、ゆっくりゆっくり思い出した。もうほとんど、忘れてしまっていた。

恋愛の真っただ中を生きていたときも、男と女、人間と人間の交わり方がこんなに微細だったことに気づいていなかったと思う。

ハプニングやら泥沼やら、目を見張るような濡れ場なんかこれっぽっちもない。

フォーカスするのはそこじゃなくて、登場する人間の一瞬一瞬の生々しさである。それが「温度」として皮膚を伝ってくるように感じた。

私たちは誰だって、こんなにもドラマチックな瞬間を積み重ねて生きていることに、気づくべきなんじゃないか。

ある酒場で見た光景

ジントニックを飲み終え、次のオーダーを考えていると、いつの間にかカウンターの中の女が声を出さずに泣いていた。

女はその涙を拭うことなく、氷をカットしていた。ただ頬から涙が流れているだけで、泣いているという素振りはまるでない。

そこには泣くことに伴うはずの心情的な仕種はなく、涙が流れるという生理的な現象だけが表れていた。あるいは生理的現象ですらなく、ただ頬に涙が流れる情景に過ぎないのかもしれない。

女の涙が顎に届くと、店主は無関心にそれを手で拭い、女がカットした氷の形を確かめた。

ある酒場で見た光景/藤田七七 note

これはエッセイなので、おそらく書かれていることはすべて藤田さんの目に映った「情報」である。彼の目にはいつもたくさんの情報が飛び込み、ときどき困惑させられるのかもしれない。

でも、その単なる情報は、彼の目にしか見えない世界として、ストーリー化されていく。物語を書く人は、物語の中を生きているのだろう。

彼だけが、別の空間を生きているのかもしれない。いや、そうじゃなくて、人間はみんな同じ空間を生きているようで、実は全く別の世界を生きているのかもしれない。

ここで出会ったバーのマスターも、涙を垂らす女も、バーを教えてくれた地元の男の目にも、この物語は見えない。当たり前なんだけど、人間の数だけ世界があることを思い知らされる。

藤田さんの品格漂うエッセイからは映像がありありと浮かんでくるのだけれど、その映像は特別煌びやかでも、ゴージャズなわけでもない。優雅さがあるのに、日常にスーッとしみ込んですぐに目立たなくなる。このギャップというか、絶妙なズレがあって心地がいい。

人間という移ろいやすい生ものを、より美しくすっきりと描いているように思った。

初めてのフランシスアルバート

「ここを勧めてくれた人に報告しなくていいの。フランシスアルバートを」
そう言うと彼女は最後の一杯にカミカゼをオーダーした。

初めてのフランシスアルバート/藤田七七 note

カクテルにそれぞれの「想い」があることを綴ったnote。カクテルには「カクテル言葉」というものがあって、意味が込められているというのはなんとなく聞いたことがった。

幼稚な私にとって「お酒を飲みに行く」というのは、その場で時間やエネルギーを消化させ、ちりぢりにさせることだという感覚があった。

でも、大人の飲み方というのはそうじゃないのだなと、初めて、ほんの少しだけ理解したかもしれない。カクテルを味わうというのは、どういうことなのかもっとちゃんと知ってみたいと、思った。

その場所を知るきっかけ、道、共に過ごす人、注文するカクテル、共有した時間と、家路につくまでの余韻。なんだか、バーに行くというのはひとつの物語なのかもしれないと思ったら、心が子どもな私も途端に興味がわき、憧れた。

藤田七七さんのnoteは、どこを切り取ってもエレガンスがある。エレガンスを使いこなす人だと、私の目には映った。

優雅さに人らしい温かさが相まって、少しだけ、酔いが回ったような錯覚に陥らせてくれた。

藤田七七さんのnoteはこちら→https://note.com/obladi

藤田七七(fujita77)profile:barや男女のアレコレの文章を書いてます。 instagram fujita.77 Twitter @tullamoredew07

Kandouya編集部/夏野 新

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