
「そこに、温度がある人たち。」2月の第九回は、岩代ゆいさんのnoteをご紹介したい。
今回は、岩代ゆいさんを例にして「傷ついてきた人にしかない言葉の響き、余韻」についても書いてみたいと思っている。自分を自分のままに表に出すこと。愚かさや過去の後悔まですべてさらけ出すことは、とても怖いのだが、そういう人にしかない温度がここにある。
岩代ゆいさんのnoteを読ませていただき、そんなことをあらためて実感できた。
「お父さん、ごめんね。優しくできなくて。」https://note.com/ohagi_chan/n/nf4073c82630d
私はなるべく父が喜びそうな音楽を選んでかけるようにしている。今日はシューベルトの歌曲集「冬の旅」(フィッシャー=ディースカウ)をかけてみた。案の定とても喜んで、「音をもっと大きくしてくれ」と言って聴き入っていた。父はブラームスの交響曲も好きなので、それらも聴かせてあげたいと思う。私にできることなど、たかが知れているのだ。父のお気に入りの音楽を、時折聴かせてあげる程度のこと。ここまで育てて、病気の私を支え続けてくれた父への恩返しなど、到底できはしないのだ。
「お父さん、ごめんね。優しくできなくて。」https://note.com/ohagi_chan/n/nf4073c82630d
現実は、思ったほどきれいではない。どんなに心の中で謝っても、優しい言葉を探しても、どうしようもない瞬間をいくつも抱えているのだと思う。でもね、「お父さん、ごめんね。優しくできなくて。」とタイトルにしたところがすでに、岩代ゆいさんの人間が出ているよなあ。
優しくできなくて、と言っているけれど、お父さんのためにこうして、喜びそうな音楽をかけてあげたりしている。なのに、そのことはタイトルにしない。たとえば「高齢の父に音楽を聴かせること」みたいな感じでもよかったはずなのに。
他のnoteもたくさん読んでみて思った。
ああ、この人は全部、自分自身に返してしまう人なんだなあって。どれだけ自分と向き合い、自分を責めて、自分に痛みを全部返してきたのだろうか。心を壊してしまうのも頷ける。
最後には誰の責任にもしないから、「誰かのために何かしている」という感覚さえ小さいのかもしれないなあ。
静かで激しい感情のnote、それが岩代ゆいの魅力だ。
「父の書いた遺言」https://note.com/ohagi_chan/n/n87823b371812
形は違えどすべての人が通る道。家族がこの世から消えていく。ほんの一息で、ほんの30分で、何日もかけて、そして何年も何十年もかけて。私の中に残っている父の姿はまだぼんやりとしている。死後約10分のこと切れた姿であったり、今の私よりも若い姿であったり、コーヒーを飲む姿であったり、煙草を吸っている姿であったりする。どれも私のたった一人の父だ。父が、この世から消えていく。あなたの家族も、いつかは。
「父の書いた遺言」https://note.com/ohagi_chan/n/n87823b371812
まだ、涙は、出ない。
心にある傷口からたくさんの血を流してきた人が書く言葉は、私の経験上の範囲ではあるけれど、まずうるさくない。やかましくない、でも確実に心と感情を捉えている。そして、読み終えて数分間「余韻に浸らせる」響きを持っている。
もう十二分に泣いてきた人だから、うるさくないんだろうなと思っているんだよね。
うるさくないっていうのは、グチグチ言ってないとか、自己主張が激しくないとか、そういう安っぽい意味じゃないよ。「伝え方」が静かだってこと。もうぐるり一周してしまえば、どんなに重い感情も、静かに伝えてしまうの。
この場所にいる人は、まだまだ少ない。単純に年齢を重ねたからとか、時間を重ねたから、いけるわけじゃないのよ。
岩代ゆいの持つ温度とは、そんな静かで強い海のような、飲み込んでゆく温度である。

「選択の誤りをどう受け入れる?」https://note.com/ohagi_chan/n/nde8b9c0781c6
いずれ私は堂々と選択できるようになる。自分の選択を後悔しない私になる。離婚を後悔していないと心から言えるようになるまで20年近くかけたのだ。大丈夫、私は私になれる。私は、私自身になれる。
「選択の誤りをどう受け入れる?」https://note.com/ohagi_chan/n/nde8b9c0781c6
選択の誤りに後悔することは誰にだってあるだろう。もしかしたらそれは本当に間違っていたのかもしれないし、そうではないかもしれない。その時に自分が決めたことが、自分の精一杯であることもたくさんある。
時間の経過とともに、誤ったと感じていた選択を、「後悔していない」に変えることができる人がいる。どれだけ果てしない道だったことだろう。どれだけ自分を苦しめ痛みにもがいたのだろう。
自分の首を絞め続けることがどれだけつらいことか、私も知っている。
「この人には、できるだけ、できる限り笑っていてもらいたいな」と、人生修行中の森花は思うのでした。岩代ゆいさんにしかない言葉の響きと余韻を、ぜひたくさんの人に味わってもらいたい。
岩代ゆいさんのnoteはこちら→https://note.com/ohagi_chan
岩代ゆいprofile:世界の片隅で、火を噴くようにものを書く。エッセイ、小説、書きます。当事者研究やってる。cakesクリエイターコンテスト2020、佳作いただきました。
kandouya編集部/森花