HSPは苦しいことばかり。でも、その理由は「HSPだから」ではありません

人の感情や顔色に敏感で、繊細な感性を持つHSPという『気質』。最近、世間的に広く知られるようになってきましたよね。HSPは病気や障害ではなく『気質』です。この気質という言葉を聞き慣れない人も多く『性格』や『人格』と勘違いしている人もいるはずです。
HSPの気質は『生まれつき持っている遺伝子』と考えましょう。生まれつき持っているものを、これまで生きてきた経験である『人格』が影響を与え、今のあなたの『性格』を作っています。つまり、気質は変えられないけれど、性格は変えられるのです。
だから、HSPだからこの先もずっと苦しいというわけではありません。また、HSPだから弱い性格ということもない。ひねくれている、弱い、根性がない……HSPに関するありとあらゆる悪いイメージを全部捨ててから、ここから先を読んでみてください。
HSPがなぜ、苦しくなってしまうのか?

HSPはなぜ、こんなにも苦しい、生きづらいというイメージが定着しているのでしょうか。そして、実際に悩んでしまう人は、なぜ今のような状況になっているのか、わかりやすく解説します。
1.HSPはひといちばい刺激をキャッチするから

HSPは確かに、さまざまな五感の刺激に敏感です。五感のうち、どの感覚が敏感か、また敏感さのレベルも人によって違います。
例えば、私の場合は五感の中でも、音・肌の感触・人の感情に敏感です。これは、人によってはにおい・視覚・味覚など別の感覚に強く反応することもあります。また、ちょっと気になるというレベルから、刺激を受けると日常生活に支障が出る人まで、レベルは大きく異なります。
HSP気質で苦しいと感じているあなたは、どの感覚への刺激が、どの程度敏感なのかをもういちど考えてみる必要があります。
2.刺激を受け取っているだけなのに「弱い」と言われるから

HSPは、弱い人間ではありません。『刺激に弱い』などと言われることもありますよね。しかし私は、刺激を敏感にキャッチするというだけであって、弱いという表現は適していないと考えています。
またあなたは、自分の気質に気づいたばかりです。HSPは研究が始まってからの年月も浅く、まだまだわかっていないことも多いもの。どう扱えばいいかわからないだけであって、決して人間的に弱いとか、劣っているということではありません。
人の気持ちを考え過ぎたり、場の空気を読み過ぎてしまう人も同じです。例えば、ピーマンの苦みを強く感じる人と、甘みを強く感じる人がいるのと同じように、人のネガティブな気持ちを強く感じてしまう人と、人のポジティブな気持ちを強く感じる人がいます。
どっちが強い、弱いということではまったくありません。また、男性と女性とでHSPを持っている割合に違いはありません。男性でも、繊細さに悩んでいる人はたくさんいます。男性の場合「男のくせに弱い」という違った悩みが塗り重ねられていることも少なくありません。
3.みんなに合わせることが当たり前になっているから

HSPという気質は、生まれつき持っているものです。しかし、この気質は5人に1人程度しか持っていません。1クラス30人の教室の中に、6人程度と考えてみてください。少数派は、どうしても多数派に合わせて行動しなければならない場面が多くなります。これは、現状としてしかたがない部分ですよね。ただ、だからといって少数派の6人が『ダメ』なのではありません。
多種多様な人がいてもいいけれど、どうしても大人数に合わせて生活や行動をすることが、世の中の当たり前になっているだけ。あなたの性格が悪い、根性がないといった理由ではなく、少数派であるために苦しいと感じることが多いのは当然なのです。
4.苦しいその理由が、はっきりわかっていないから

HSP=苦しい、というのは間違いです。私は、HSP気質をもっていても人生を自由に謳歌している人をたくさん知っています。そして、私自身もHSPですが、自分が苦しい理由をしっかり調べた結果、以前のように『自分はダメな人間』『この性格のせいで生きづらい』といったネガティブな考え方をすることがだいぶなくなりました。
ひとことでHSPといっても、その中には無限のパターンがあります。冒頭でもお話したように、人間の性格は『生まれつきの気質』と『これまで生きてきた経験』で作られています。そして「1」の項目にあったように、五感の中のどの感覚が、どの程度敏感なのかも、人によってバラバラ。育った環境も、今の現状も、人によってまったく違います。
あなたはまず、自分がなぜ苦しいのか、どんなことが苦しいのかを見つめなおすことからやっていく必要があるのではないでしょうか。
5.HSPは子供のときから、ずっと頑張り続けているから

HSPは、生まれつきの気質です。HSPの子供のことをHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)といいます。
生まれつきということは、あなたは子供時代からずっと敏感でした。0歳のときも、3歳のときも、10歳のときも、18歳になったときも……。いつでも、ずっと人よりたくさんの刺激をキャッチして、その処理に追われてきたのです。生まれたときからずっと、多数派に合わせて頑張り続けてきた。それが苦しいと感じはじめ、今HSPを知ったということは「今まで、自分の取り扱い方を知らなかっただけ」ということになります。
HSPの苦しい気持ちは、たくさんの人が抱えています

HSPの苦しい気持ちは、とても多くの人が抱えています。確かに、社会全体からすると少数派です。しかし「生きづらさ」という言葉が多くの場所で見聞きされるようになったこの時代、多数派に合わせて行動したり、人の気持ちに敏感で悩んでしまう人はかなり多いのです。しかし、それを声に大にして「私は苦しい!」とはなかなか言えませんよね。あなたもそうだと思います。
私は、HSPの27個のチェック項目のうち、21個に該当します。チェックリストは14項目以上に当てはまるのがHSPと診断するひとつの目安ですので、典型的なHSPの部類に入ると思っています。
ガヤガヤとした場所では、周囲にいる人の話し声が一度に耳に入ってくるし、長時間人と話すのがとても苦しいです。複数人で話していると、自分が楽しんで話すことよりも「この中に、退屈や不快感のある人はいないか?」ということが気になって、自分が楽しむことを忘れがち。一緒にいる人が落ち込んでいたり、疲れていたりすると、自分も小さくなってしまう。そして、小さなことがいつまでも気になってグルグルと考えすぎ、ひとりで勝手に疲れてしまったりします。
その他にも、人に注目されていると本領を発揮できないし、長時間ひとりの時間がないと息苦しくてしかたがない……など、数々の苦手なことがあります。それでも、今は「自分は何が苦手で、どんな状況が合っていない」ということがはっきりわかるため、生活の中でうまくコントロールできるようになっています。もちろん、この気質のせいで悩むことや疲れを感じることは多いです。でも、原因がわかっていれば対処法もわかります。体の病気や機械の故障と同じように、原因を知れば「じゃぁ、どうすべき?」がわかるので、必要以上に苦しんだり悩んだりすることが減りました。
HSPの苦しさを改善するには、どうすればいいの?

自分自身が持っているHSPの傾向や「どんなことが苦手なのか」がわかったら、それをどうコントロールしていくかを考えればいいのです。最初からすんなりとうまくいくわけではないし、生活のリズムや状況によっては難しいこともたくさんあるでしょう。それでも、自分のできる範囲でできる対処をしていくことが、このHSP気質との付き合い方のコツです。
1.自分の特徴やキャパをちゃんと知ること

繰り返しになりますが、HSPといってもタイプやレベルはさまざまです。「HSPとはこういう人!」なんていうのは、あくまでも平均的なもので、目安に過ぎません。「HSPだから自分はこうなんだ」という考え方ではなく「自分はどんなHSPなのかな?」と考えるようにしましょう。
- 苦手なこと
- 不快に感じること
- 得意なこと
- 人から褒められること
- 生活リズム
- 苦しくなるときに共通していること
このようなことを一度整理して、振り返ってみてください。パターンが見えてきたら、自分の苦手なことと得意なことをしっかりと分けます。これが、自分の気質の傾向を知る第一歩です。
2.いつから、どんなことに違和感を持っていたか気づくこと

HSP気質を知ったばかりの人は、まだ自分の中にある違和感や、苦しいと感じることがぼんやりとしかイメージできていないのではないでしょうか。自分の得意なことや苦手なことをしっかりと分けたら、今度は「いつから」「どんなことが苦しいか」を振り返ります。
それは、子供の頃の記憶でもいいし、大人になってからのことでもいいです。HSPは、子供の頃から人の気持ちや場の空気を読んで育っているため、のびのびと自由奔放に育っていないというケースも多くあります。もう大人なんだから、と切り捨てず、子供のころから苦しいと感じていたことにもしっかりと気づきましょう。そして、それを受け止めてあげましょう。
3.「ダメな性格」「弱い人間」というレッテルを剥がしていく

HSPは、多数派の人に合わせて行動したり、自分より他人の気持ちを優先してしまうことが多いため、ストレスを抱えます。ストレスが常にある状態なので、どうしても「弱い」「根性がない」「コミュ障」というような悪いイメージをもたれたり、自分で自分を責めたりします。
しかし、ここまでお話してきたように、それはあなたが悪いのではなく、弱いのでもありません。まずは「自分はダメ」「私は弱い」というレッテルを自分で剥がしていきましょう。
4.世の中には「普通」なんて存在しないと知ること

HSPは「普通のことができない」とか「普通とは違う」という言い方をされやすいです。しかし、普通なんてものは多数派の人がなんとなく作り出したものです。あなたが、自分よりも人を優先してしまったり、人の顔色が気になって悩んでしまうこと、感覚の刺激に弱いことは、あなたの中では普通なことです。
なぜ、生まれつき自分を軸にして天真爛漫に生きられる人に、人の気持ちを大事にできるHSPばかりが合わせなければならないのでしょうか?お互いに歩み寄って、違いを認めるというのは「普通」という漠然としたものを取り払うこと。普通という感覚は、人の数だけあって「社会の中の普通」なんて存在しないのです。
5.HSPだから〇〇、HSPじゃないから△△という方程式はない

HSPだから内気。HSPだから弱い。そんな風に、単純に考えてしまうと苦しくなります。例えば、HSPのチェック項目の中で、14個当てはまったらHSPといわれていますが、13個だったらHSPじゃないのでしょうか。3つしか当てはまらないけど、その3つがとてもつもなく強く表れていて、生活に支障が出るなら問題ないのでしょうか。
どちらも違うと思いませんか。あなたがつらいと思ったら、HSPだと思っていいのです。自分にプラスとなるのであれば、この気質を自分なりに解釈して、今後に活かしていけばよいのです。
HSPは苦しいものじゃない。自分を知って、生きやすくなろう

HSPは苦しいと感じることが確かに多いのは、事実です。私にもその経験がありますし「普通に生きているだけで疲れる」と毎日思っていたからです。でも、扱い方と回復方法さえわかれば、あなたはもっと自由になれます。
自由というのは、誰かが決めるものでもなければ、人から自由に見えることでもありません。「あなたが自分の中で納得できる生き方」ができるという意味です。まずは、苦しいと感じている理由や、自分の気質の特徴を知りましょう。また、HSP気質をもちながらどんな環境で育ってきたかも重要になります。決して焦らず、一歩一歩自分のなかの苦しさを、解放していきましょう。/夏野 新