
HSPとは、脳の発達特性である、 Highly sensitive person (ハイリー・センシティブ・パーソン)の頭文字をとったものです。
近年「繊細すぎる」「敏感過ぎる」という言葉と共に、HSPの認知度が高まってきています。ささいなことですぐに動揺して前に進めなくなったり、考え過ぎて疲れたりしてしまう。人の気持ちを思いやりすぎて、自分の気持ちがわからなくなるなど、さまざまな「ハンディ」のように捉えられている部分があります。
HSPは確かに、普通に生活しているだけでエネルギーを消費しやすいのですが、それは「脳の発達が通常よりも速いため」なのではないかと、私は考えています。
この記事ではHSPのすばらしき能力と、生きづらさの関係、HSPの能力を存分に発揮するまでのプロセスについて深く掘り下げていきます。筆者自身が体験したことや普段感じていることからの考察、また実践したことに基づいて書いています。
【基本概要】HSPとは?

- 情報処理の深さ
- 過剰に刺激を受けやすい
- 感情的共感性・高度な共感性
- ささいな刺激への感受性
この4つの特徴をもつ、気質です。病気や発達障害ではなく、基本的には医師の診断ではなく自己診断により「自覚」するもの。
生まれつき脳の動き方に特徴があり、HSPを自覚する人は赤ちゃんの頃から刺激に対して敏感であり、深い情報処理を行ってきました。
基本的なHSPの特徴は以下の記事を参考にしてください。
HSPはひといちばい考える能力の高い人~繊細・敏感の殻を破ろう~
繊細・敏感過ぎる・生きづらい・疲れやすい・悩みやすい……というネガティブなワードが飛び交う中で、筆者はもっとHSPの「ひといちばい高い考える能力」を存分にいかして、毎日を楽しく、幸せに生きていける人が増えていってほしいと考えています。
脳の発達から見るHSP

人が能力を最大限に発揮して成長していくためにとても重要なもの、 それは「共感性」と「知的好奇心」です。HSPは「生きづらい」「疲れやすい」という面ばかりが注目されていますが、HSPの驚くべき能力にも目を向けてほしいと感じています。
脳は刺激によって、発達し続けていく
子どもを育てるときには、子どもの知的好奇心を育てていく必要があるといわれますよね。
なぜ知的好奇心を育てるのがいいのかというと、それは「脳の回路をつないで、発達を促していくため」です。
人間の脳は、常に刺激や情報が入ってくることにより、脳の神経細胞である「ニューロン」がつながって情報の道ができていきます。このニューロンという神経細胞の数は、生まれてから死ぬまで数が変わらず、生まれた時点でおよそ140億個も備わっています。(※海馬に限っては神経細胞の数が変化します)
ニューロン同士がつながり、脳の中に回路がどんどん広がっていく。この回路のつながりが多ければ多いほど、人の脳はすごい力を発揮します。脳の一部の回路だけが繋がっているのではなく、よりたくさんのニューロンが繋がり、回路がバランスよく繋がっていることが重要だとされているんですね。
脳は刺激を受けるたびに発達し、回路が繋がります。逆に、刺激を与えないと回路は途切れてしまいます。
つまり、HSPの生まれつき人よりも情報や刺激を多く受け取るという特性は、脳を発達させていくためにとても有利なのです。
HSPは「1の情報で10理解することができる」という、高い理解力をもっています。これは、紛れもなく優れた能力であり、正しい使い方、促し方をしていくことでとても有能な力を発揮するのではないでしょうか。
脳科学研究者の池谷裕二さんは、人間の脳はオーケストラのようだと話しています。
脳のひとつの場所が活発でも意味がなく、脳のすべての部位をバランスよく育てることで、すばらしい広がりをみせてくれるという点で、脳とオーケストラには共通するということ。
HSPは五感の刺激に対して敏感であり、共感性、記憶力、情報処理……といったさまざまな面で優れた能力をもっています。その分、疲れたりエネルギーを消耗しやすいのは確かなのですが、その人それぞれに適したコントロールさえできれば、脳は全体的に活性化し、想像を超えた力を発揮していくことができるわけです。
共感力と知的好奇心が、脳を育てる
脳科学の分野では、子どもの脳の発達に重要なのは「共感力」と「知的好奇心」だとされています。どんな力も満遍なく備えていくことが必要なのですが、特に大事なのがこのふたつの力なのです。
HSPとエンパシーの共感力
共感力の中には2つの種類があって、シンパシー( sympathy )という同情や思いやりの力と、エンパシー( empathy )という感情移入の力に分けられます。
どちらも大事な力ですが、脳の発達に特に大事だとされているのは、エンパシーの方です。エンパシーは、人のしぐさや表情などから感情を読み取る力。そして、HSPの共感性はシンパシーはもちろん、エンパシーの方も強いです。
共感力がHSP最大の特徴であることは、多くの方がご存知ですよね。ときどき人に感情移入しすぎて疲れてしまうこともあるのですが、少しずつ意識したりコントロールしていく心がけで改善することができます。
HSPと知的好奇心
HSPはもともと、情報処理に長けた脳をもっています。「深い情報処理」という特性は、社会生活で必ず活きるものです。HSPに限らず、知的好奇心をどんどん伸ばしていくことで、人間の能力はどんどん開花していきますよね。
好奇心に従って、ものごとを追求していく。その中では人とのかかわりや、人の心やものごとの運びを想像する力が欠かせません。HSPが好奇心大事にし、大事に育てていくことでその能力は必ずすばらしい実を結びます。「知りたい!」「やってみたい!」「なぜだろう?」という好奇心を、HSPの優れた処理の深さで掛け算的に広げていくことができるためです。
HSS型(外向型)HSPという人々

HSPは「繊細」「敏感」という特徴から、大人しくて内向的で、静かな人であると勘違いされやすい部分があります。しかし一方で、アクティブで人との関わりやチャレンジ精神旺盛な外向型HSPというタイプの人がいることも事実です。
HSS型HSPは、鋭い観察力や共感性、情報処理の深さをもちながら、自分の好奇心に従っていろいろなことにチャレンジしたり、上手く立ち回ったりすることができる人が多いです。
しかし外からは「器用な人」「優秀な人」に見える反面、陰で並みならぬ努力をしていたり、HSPの敏感さによるストレスに悩んでいたりして、内と外のギャップに苦しんでしまうことも非常に多いです。
HSS型HSPの場合も、自分という人間をより深く理解して、どうコントロールすればよいかということをしっかり見つめることが大切です。
なぜHSPは外向型と内向型に分かれてしまうのか?
同じHSP気質をもっているのに、なぜ外向型・内向型に分かれてしまうのか……。
それは「好奇心に従って活動した経験」や「そのままの自分を理解してもらった経験」に差があるのではないかと考えられています。もちろん遺伝子的な違いもあるのですが、それと同時に環境要因もまた大きな差を生むことがわかっています。
HSPの提唱者である、エレイン・N・アーロン博士の著書の中にはこう書かれています。
HSPの70パーセントは内向的でしたが、30パーセントは外向的でした。
(中略)
外向的なHSPの多くは、安心できる環境で、周囲の愛情をたくさん受けて育てられてきました。彼らにとって集団とは、慣れ親しんだ安全なものだったのです。
また、家族から社交的になるようにしつけられた人もいました。周囲の期待に応えるため、厳しい訓練を受けてきたわけです。他にも、他にも外向的になる決心をした時のことを覚えている女性もいました。
ひとちばい敏感な子/エレイン・N・アーロン
臆病、心配性、神経質、落ち込みやすい、考え過ぎる……といったHSPの生きづらさと関連付けられいるものは、すべて後天的なものであり、HSP気質そのもののせいだけではないということです。
これは非常に重要なことですし、これらの後天的にできあがった性格がHSPの能力を鈍らせてしまったり、マイナスに作用してしまっていることもあるのです。
脳は変わる!性格も変わる! HSPを能力として捉えるために

HSPは、優れた共感性と深い情報処理という強い武器をもっています。それを、それぞれの知的好奇心が向く方向へ活かしていく……。これを意識すると、幼い子どもが自然にいろいろなものに興味をもって、学んでいくのと同じように脳を発達させていくことができるわけです。
もちろん、子どもの吸収力や学習の速度には敵いませんが、HSPのこと、また自分自身のことを深く理解することによって、脳は何歳からでも発達するし、回復や再生もするのです。
今のままでも十分に価値があるし、自分をまるごと受け入れるということは大事なことではあります。しかし、もしもあなたが「もっと自分らしく生きたい」「やってみたいことがある」というチャレンジ精神や、人生への課題を感じているなら、あなたにはきっとそれを達成することができます。そう信じてみてほしいのです。
それをふまえた上で、今後大事にしていきたいこととはどんなことなのでしょうか。
HSPとストレス
HSPは刺激を受けやすいぶん、ささいなことで悩んだりストレスを感じやすいのは確かです。
HSPは生まれたときから敏感さをもっていますから、あなたには生まれてから今までのストレスが蓄積していると思ってもよいかもしれませんね。
敏感な部分がさらに敏感になったり、不安なことが多すぎるあまりに行動に起こせなくなったり、内に秘めたりしてしまうことも非常に多いです。敏感過ぎる子どものことをHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)と呼びますが、HSCは赤ん坊のころからたくさんの刺激を受け取るのに対し、それをはっきりと言葉にして伝えることができないため「育てにくい」「変わった子」などという見方をされることも少なくありません。
そんな「敏感さを大人から十分に理解されず、無条件に愛されることなく育った子ども」が今、大人になって悩み、HSPを自覚している……というケースが多いのではないでしょうか。
「HSP=生きづらい」という認識が広まっていますが、生きづらさの原因はそれだけではなく「自分を丸ごと受け入れられる環境で生きてこなかった」という点に、大きな原因があるのではないでしょうか。
世の中には強いHSP気質をもちながらも自分の好奇心に従って、人生を謳歌している人がたくさんいます。そんな人々に共通することは、HSPという気質を知っても、あまり興味を示さないことです。
筆者自身、HSPという気質を知ったときは「自分のつらさはこれだったのか!」と、深く心が動いたものです。しかし、生きることにつらさを感じていないHSPは……
「当たりすぎて怖い!」「見透かされた気分だ」などという、まるで占いを楽しむような感想だけで終わってしまう人もいます。
自分という人間をちゃんと理解して、その扱い方がわかっている人はHSPという気質に執着することなく「自分は自分である」という感覚をしっかりともっています。自分で自分の人生をコントロールできるという実感があることにより、極端な生きづらさを感じにくいというわけです。
脳の自己治癒力
HSPは、刺激によるストレスをしっかりと癒す時間が必要になります。また、自分に必要なものとそうでないものをしっかりと分析して分ける作業も必要です。
脳は、感じたストレスを自分で解消して自己治癒する能力をもっています。「可塑性(かそせい)」という機能が備わっているため、ストレスや損傷を受けても再生するということがわかっています。
HSPは刺激を受けやすく、ストレスを受けやすいゆえにメンタルの疾患にもかかりやすいのですが、自分の取り扱い方さえわかれば、どんどん変化して回復するのです。
仮に今、あなたが既に強い生きづらさやメンタルの疾患を抱えているとしても、自分をちゃんと理解してその扱い方を正していけば、何歳でも、いつからでも回復が可能なのです。
また、日常的な部分では、HSPは人より多くの睡眠をとることが非常に大事だといわれています。
「寝る子は育つ」という言葉があるように、睡眠をしっかりとることで脳は次の発達に備えて休息することでさらに発達します。もちろん脳に限らず体全体を休めてエネルギーを回復させるためにもたくさん眠りましょう。
睡眠だけでなく、ひとりになる時間やクリエイティブな作業、熱中できるものに集中して、没頭するような時間を設けることも非常に大切です。
HSPがクリエイティブな作業に向いているワケ
HSPの気質をもつ人は、クリエイティブな作業に没頭することが多いのも事実です。クリエイティブという言葉を使うと、新しいことを生みだしたり、創造する作業をしたりして、時代の最先端にいるようなイメージをもつかもしれませんが、実はそれだけではないのです。
クリエイティブとはひとつの作業を通じて「考えること」を指しています。そのためHSPはすべての人が「何かを作る作業をする」とは限らないこともまた事実です。
料理やハンドメイドのような0から1を作り出す趣味は、HSPにとって大切な精神統一の時間と考えることができます。私のように文章を書く人もいれば、楽器を演奏したり作曲したりして自分の世界に入り込む人もいますね。
一方、映画鑑賞や音楽鑑賞、読書といった「受け取る趣味」にも同じことがいえるのかもしれません。自分なりに解釈したり、音楽や物語のメッセージを追求することで「自分なりの考え」をクリエイトしているわけですね。脳の散り散りバラバラな情報が精査されて、すっきりします。
常に頭の中にさまざまな刺激が入り込み、情報が飛び交っているHSPの脳。考えようとしなくても、常に何かを考えてしまう脳は「今、考えるべきこと」を自分で自分に与えてあげることで、逆に負荷を感じにくくなるという場合もあるのです。
また、何かを表現して表に出すことも非常に大切です。形にする、ということは外に出すのと同じなのですね。受け取ったものは、自分の中で咀嚼してから表現する「アウトプット」をすることで循環していきます。エネルギーは循環させないと滞るばかり。どんどん外に出して表現すれば、知識は自分の血肉となり、新しいエネルギーを吸収することもしやすくなるのです。
これをやっていくと、どういうことが起こるか……
特定のジャンルのことに詳しくなったり、ひとつの物事を極めたりすることができます。好きなことを通じて脳の回路の交通整理をしながら、特定の技術や知識ををどんどん広げ、蓄えていくのです。
それが結果的に引き出しの多い、奥行きのある人の土台になっていく。HSPが好きなことを極めることで、その能力が掛け算的に広がっていくのは何ら不思議なことではないと、理解できるのではないでしょうか。
考え方を意識して変えることの重要性
HSPの能力を引き出すには、思考のクセや考え方を変えていくことも、非常に大事です。マイナス思考や、人の目を気にしすぎることによる言動は、今からでも変えることができるのです!
脳の回路は、一度道ができても、使う頻度を減らしたり使わないようにすると、その回路は途絶えます。
ネガティブなものの見方や、不安を動機にして動くこと、人の目を気にしすぎる、小さなことでクヨクヨ悩んでしまう……こういったものは、人間誰しも多少はある部分ですが、意識してやらないようにすると、その脳の回路は通行止めになり、使われなくなります。
代わりに「大丈夫」「気にしない」「なんとかなる」というように、新しい考え方に意識的に変えていくことでそちらの回路が常に使われるように変わっていくのです。
最初はなかなかうまくいかないのですが、小さなことでもパッと思考を切り替えるように努力していくと、本当に変化していきます。筆者も実際に、これを体感しました。
自分でも嫌になる…HSP特有の【考えすぎるクセ】をやめる方法とは?
自分でコントロールできるものと、できないものを見分けること
もうひとつ、HSPのストレス対処で大切なのは「自分でコントロールできること」と「自分の力ではどうすることもできないこと」を見極める取捨選択です。
脳はちゃんと、自分でコントロールできる範囲をわかっています。考えることで軽く脳に負荷をかけるのは、新しい回路を作るために必要なのですが、コントロールできないほど異常なストレスを溜め込んでしまうと「不調」「病気」といった形で表にでてくるのです。
理解し合い、補い合うパートナーを求めよう
HSPにとって「理解者」の存在はとても大切です。本来ならば、幼少期~思春期の間に、親やその他養育者、教師などの周囲の大人から理解されながら育つ必要があります。
- もっとこうしなさい
- がまんしなさい
- なんでできないの?
- それはダメ、あれはダメ
- もっと頑張りなさい
- あなたはダメな子
日本の社会ではこんな風に育てられてきた人ばかりなんです。だからこそ、HSPはその能力よりも、生きづらさの方が目立ってしまうのです。
それならば、大人になった今「自分で理解者を選んでいく」ということが必要なのではないでしょうか。HSPにとって、同じ気質をもつHSP同士で交流することも必要です。しかし、相手が非HSPでも理解して、愛情深く接してくれる人はいます。自分ひとりで生きていく、誰にも頼らずに自己コントロールしていく……というのはなかなか難しいものです。
誰かに頼り、時に頼られながら、補い合って人生を共にできる人と一緒に「安全基地」を築いていくことがとても大事なのではないでしょうか。もちろん、理解してもらうには、こちらも相手を理解することが必要です。凹凸をうまく埋められる誰かに、きっと出会えると信じてみましょう。
HSPは自分をしっかり知ることで、その奥にある能力に必ず気づける

HSPは能力であり、ハンディではありません。ハンディと感じられてしまうのは「自分が自分のままでいていい」という感覚をもてないことにあるのではないでしょうか。
そのためには、自分の考え方のクセや頭の中の動き方を、冷静に見つめてみてください。考える力のひといちばいあるHSPならばきっとできるでしょう。
繊細であること、刺激や情報に敏感であることは強みです。繊細で敏感だからできない……と自分の可能性を限定していくのではなく、繊細で敏感な自分だからこそできることや、見える視点にもっとスポットを当ててみてはいかがでしょうか。
多くのHSPの方々に、もっと自分のよさに気づいて欲しい。また、自分の可能性をもっと広げることは、今からでも何歳からでもできると知って欲しいです。/夏野 新
【参考文献】
- ひといちばい敏感な子/エレイン・N・アーロン
- 最新の脳医学でわかった! こんなカンタンなことで子どもの可能性はグングン伸びる!/ 瀧 靖之
- 幸せとは気づくことである/茂木健一郎